THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−2
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http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
2
キャラバン「ハイウイングス」は5台の馬車と、20頭の馬を所有している。
テッドの小隊はシューマ、ビーゼ、ヘンデンとの四人編成で、馬での移動である。担当の積荷は香辛料だ。
一行は町を出ると団長を先頭に一列に北に進んだ。テッド小隊は列の最後尾から二番にいる。
サイドベイタウンの外は平原が広がっている。平原の緑の草が風になびき、白い雲がゆっくりと空を滑っていく。振り返れば町の向こうの青い海に太陽の光がキラキラと反射している。
これだけ見ると平和で穏やかな風景だが、見た目以上にこの平原は治安が悪かった。キャラバンの積荷を狙った盗賊が多く出没するのだ。暗くなれば狼も出る。あちこちに点在する岩の陰は彼等の隠れる絶好の待ち伏せ場所だった。
そのため、キャラバンの人間は常に護身用の武器を携帯していた。
テッドも護身刀を腰にぶら下げている。長めの直剣であるが、剣と言っても刃が無く切れ味は皆無で殺傷能力は低い。打撃武器と言った方がしっくりくる。
しばらく進むと、背後の海の景色はすっかり見えなくなった。平原には岩場が増え、生えてる植物も茂みや低木が多くなってきた。
「気をつけろよ。ここら辺は死角だらけだから、特に待ち伏せが多い。」
ビーゼが辺りを注意深く見回す。
ふとテッド小隊の近くの岩場の陰で何かが動いた。一瞬の緊張が走る。
次の瞬間飛び出してきたのはウサギだった。ウサギはテッドの馬の足元を横切り茂みへと消えた。
ヘンデンが胸を撫で下ろす。
「ビビリすぎだぜ、ヘンデン。」
テッドが笑いながら言った。
「でも盗賊怖いでやす・・・」
「まだお前、盗賊に遭遇した事無いんだったな。そんなしょっちゅう出やしねぇよ。」
シューマも笑う。しかしビーゼはジッと身じろぎもせず辺りを睨んでいる。
「ビーゼ、どうしたんだ?」
「何か気配を感じる・・・。」
突然草むらを掻き分ける音が聞こえてきた。
キャラバンの隊列の左側の岩場や草むらの陰から10人程の盗賊が現れた。いずれもボサボサの頭に、汚れた衣服、殺気立ち興奮した眼が光っている。ニヤリと笑う口からは黄ばんだ歯が見える。
「本当に出やがった!」
テッドはすかさず警笛を吹いた。笛の音を聴くや否や、全団員は武器を抜き、一瞬で近くの馬車や荷馬を防御する態勢を整えた。普段の訓練や実戦経験の積み重ねの賜物である。
「やっちまえ!」
盗賊はテッドのすぐ後ろの最後尾の小隊の馬車に襲いかかった。
テッドは反射的に馬の首を翻し馬車の護衛に走る。
それに気づいた盗賊の一人がテッドに向かってきた。
テッドは構わず馬を全速で走らせた。
向かってきた盗賊はひらりと馬をかわし、鞍を掴んだ。
「何っ!」
飛びつかれて驚いた馬が暴れ、テッドと盗賊は馬から振り落とされてしまった。
テッドはすぐに立ち上がった。盗賊は頭から落ちて気絶している。すぐに別の盗賊が奇声をあげながら錆びた斧を振りかざして襲ってきた。
テッドは敵の横に回り込み、すれ違いざまに盗賊の胴を打ち据えた。盗賊はうめき声をあげて突っ伏して倒れた。
しかし息つく間も無く別の盗賊が棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
テッドは薙ぎ払うように剣を振った。盗賊は直撃を浴び、もんどうり打って地面に倒れた。
テッドは馬車に駆け寄り、周りに群がる盗賊を3人立て続けに叩き伏せた。
「大丈夫か、ゲオルグのおっさん。」
襲われている馬車の小隊長であるゲオルグは落ち着いていた。
「ああ、大丈夫だ。」
ゲオルグは30年のキャリアを持つベテランで、ハイウイングスの副団長でもある。ハードウィップと呼ばれる武器で応戦している。2メートル程のストレートな芯棒に鉄のワイヤーを固く編み込んだ物で、先端に重りが付いており、しなって敵を打ち据える。その気になればレンガを粉砕できる程の攻撃力がある。また、リーチが長く馬車の上からも攻撃できる。
「なぁ、テッド。それよりおまえ・・・」
「話は後だぜ!」
団員達の思いのほかの強さに攻めあぐねている盗賊達の間から、一際体格の大きな隻眼の男が前に進み出た。ヒゲと頭髪がライオンのたてがみのように伸びている。どうやら盗賊のリーダー格のようだ。
「今日の獲物はちったぁ骨のありそうな連中だな。」
隻眼の盗賊は幅広の曲刀を抜き、近づいてきた。テッドは馬車の前に仁王立ちで立ちふさがり、剣をかまえた。
テッドは盗賊の頭を狙い剣を振り下ろした。同時に敵の曲刀が下から振り上げられた。テッドの剣は鋭い金属音と共に弾かれ、ものすごい衝撃でテッドの腕は痺れた。
「おい、テッド!」
ビーゼの声が聞こえた。
「大丈夫だ、問題無い。手を出すなよ!」
テッドはビーゼの方を振り向かずに答えた。
ビーゼはキャラバン一の剣の使い手である。テッドの剣の師匠で、今回初めて小隊長となるテッドの補佐という役目でもあった。だからこそテッドはビーゼの手助けは欲しくなかった。小隊長として自分の力だけで任務を遂行できる事を示したかったのだ。
「ガキ、真っ二つにしてやる。」
隻眼の盗賊が獰猛な獣の様な勢いで飛びかかってきた。
テッドが構えた瞬間、盗賊は地面の土を蹴り上げた。テッドは咄嗟に顔を背け目潰しは防いだが、一瞬の隙が生じた。
「くそっ!」
向き直ってる時間は無い。
前が見えないままテッドは剣を振ったが、剣先はむなしく空を切った。
盗賊の曲刀がテッドの右脇腹の服を切り裂き、服の破れ目が血で滲んだ。テッドは片膝を地面についた。
隻眼の盗賊は不敵に薄笑いを浮かべた。テッドは立ち上がり敵を睨みつけた。
「かすったくらいで勝った気になるんじゃねぇよ。」
盗賊はフンと鼻で笑うと再び襲いかかってきた。テッドも敵に向かって一気に踏み込んだ。
テッドはそのまま盗賊の懐に飛び込み、みぞおちに思い切り体当たりをかました。
敵はうめき、後ずさった。
テッドはその隙を逃さなかった。
テッドの剣が舞い、盗賊の胴と面に強烈な二連撃を打ち込んだ。隻眼の盗賊は仰向けに地面に倒れた。ピクリとも動かない。テッドは大きく息を吐き出した。
見渡すと、残りの盗賊達もゲオルグの小隊が全て撃退していた。
「おい。」
いつの間にかベーヴェンがテッドの後ろに立っていた。
「団長、見てたのか。まぁ、楽勝だったぜ。」
テッドは剣を収めながら得意げに言った。
「なぜ自分の小隊を離れた。おまえの役目は小隊の積荷を守る事じゃないのか。」
テッドはハッとした。敵襲時は、他の隊から救援要請がない限りそれぞれ自分の小隊を守るのがキャラバンの決まりだった。
ゲオルグの小隊はテッドの助けなど無くとも盗賊を撃退できただろう。手助けどころか、自分の小隊を手薄にして危険に晒してしまっていた事にテッドは気付いた。過剰な気負いから、己のわきまえるべき分を超えてしまったのだ。
ビーゼもゲオルグもそれを伝えようとしていたのだ。
「・・・悪い、つい飛び出しちまったんだ。」
「隊長の判断ミス一つで全滅することもある。肝に銘じておけ。」
それだけ言うとベーヴェンは列の先頭へ戻っていった。
自分の守るべき小隊に戻ると、ビーゼが吐き捨てるように言った。
「馬鹿野郎。リーダー失格だ。」
テッドは何も言い返せなかった。
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜。