T.ジョニーT.の雑記帳

きまぐれジョニーの思いつきノート

THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−4

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 http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026

4

キャラバン「ハイウイングス」はハクネ山脈を越え、更に進んだ。山脈を越えると森が広がっている。森の中に拓かれた南北に伸びる一本道は真っ直ぐカサキシティに繋がっている。

キャラバンは三叉路に差し掛かった。

南北に伸びる一本道に、東の方角から伸びてきた道が繋がっている。

 木の標識にはこう彫られている。

「↑北・カサキシティ、↓南・サイドベイタウン、→東・シナー河」

 カサキシティは東西南北からの物流が交差する大きな貿易都市である。町に近づく程、他の地方とカサキシティを繋ぐ道が幾つも合流して、道が広くなってくる。地面の馬車の轍も増え、貿易街道として栄えている事を示していた。

 

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しばらく進むと、カサキシティが見えてきた。町の1キロ程手前から街道は石畳になっている。

カサキシティは外部からの賊の侵入を防ぐため高い塀に囲まれており、塀の東西南北にそれぞれ重厚な鉄格子の門が構えている。

 

日没の直前、ハイウイングスは南門に到着した。あたりはすっかり暗くなって、塀にかけられた松明が煌々と鉄の門を照らしていた。

ベーヴェンが門番に通行許可証を見せると、すぐに鉄の門が開いた。

町に到着しても、キャラバンに一息つく暇は無い。卸売市場や小売業者に物資を届けなければならない。

ここからは小隊は解散し、品物の種別ごとに手分けして配達する。

テッド小隊の担当貨物は香辛料である。食品は大概は卸売市場に卸されるが、特殊な品は直接小売店や飲食店に卸される。

「ヘンデンとビーゼの香辛料は市場行きだな。おれとシューマのは一番街のモルドウのおっさんの店に卸す。終わったら宿に集合だ。」

この町は中央に巨大な卸売市場があり、そこから東西南北の門に向かって十字にメインストリートが伸びている。ストリートを境に一番から四番街として区切られている。

団員の多くは町の中央卸売市場に、それ以外はそれぞれの届け先に向かった。

 

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テッドとシューマは日が暮れても多くの人が行き交う一番街を、馬を引いて歩いた。街灯や窓の光が夜の街を明るく彩っている。パブやカジノが多いこの通りは夜にこそ活気づく。

「いいなぁ。カジノで一山当ててパーッといきてぇな。」

シューマがカジノの看板を見ながら言った。

目的地はストリートの一角に構える大きなレストランだった。窓から覗くと大勢の客で賑わっている。

テッドは裏口へ回った。扉を開けると厨房では背の低い白髪のコックが忙しそうに料理をしていた。レストランのオーナーシェフ、モルドウである。

「おう、テッドか!ご苦労さん!悪りいが見ての通り手が離せねぇ。代金はそこに置いてあるから適当に置いて行ってくれ。」

「毎度あり。また何でも言ってくれ。」

荷下ろしを終え、テッドは達成感と少しの疲労感を感じながらモルドウの店を後にした。

 

表通りに戻ると何やら人だかりができて、道が塞がれていた。二人の男が怒鳴りあっている。どうやらカジノの賭け勝負でイカサマをしたかしないかで揉めているようだ。

「おいおい、喧嘩かよ。やるのは勝手だけど、通行の邪魔すんなよ・・・」

シューマがため息をつきながら言う。

フード付きの白いコートを着た男が二人の仲裁に入っているようだったが、収まる気配は無かった。

言い合いをしている一方の男がおもむろにナイフを取り出した。野次馬からどよめきと小さな悲鳴が上がった。

「げっ、マジかよあいつ!ヤバイぞ!」

ナイフの男が相手に襲いかかろうとしたその時、突然周囲を白い閃光が包んだ。その場にいる人間は叫び思わず身をかがめた。

一瞬の空白の時間が流れる。

閃光で眩んだ視界が回復してくると、テッドは目をこすって目の前の光景を見た。

喧嘩をしていた二人は地面に倒れており、仲裁に入っていた白いコートの男だけが立っていた。

「今何が起きた?」

「二人共死んだのか?」

周囲の野次馬がひそひそと呟く。

「心配ありません。軽いショックを当てて気絶させただけです。すぐに目覚めるでしょう。」

白い男は周囲に向けて説明した。男は腕輪をしていた。腕輪には赤い宝石がはめこまれている。魔鉱石だ。

「あいつ・・・魔導士だぜ、テッド。魔鉱石の魔法で気絶させたんだ。」

シューマがテッドに囁いた。

魔鉱石と呼ばれる石は自然の様々なエネルギーを凝縮し蓄える働きがある。そのエネルギーを自在に引き出し使う技は魔法や魔導術と呼ばれ、その技を使える者は魔導士と呼ばれた。魔法を使うには厳しい肉体的、精神的修練が必要であり、一般人には使うことができない。

男が頭のフードを取った。男の髪は透き通るような山吹色をしていた。光の当たり具合によって髪の影がエメラルドグリーンにも見える。

その印象的な頭髪に、テッドは見覚えがあった。

「バック!?お前、バックか!」

テッドが大きな声で呼びかけると、バックと呼ばれた山吹色の髪の男が振り向いた。

「テッド!」

バックはテッドを見ると驚いたが、すぐに笑顔を見せた。

「・・・久しぶりだなぁ、おい!」

二人は互いの肩を叩いて喜んだ。

「知り合いか?」

傍で見ていたシューマが聞いた。

「おう、こいつはバック。サイドベイタウンでガキの頃一緒に育ったんだ。」

シューマは、テッドが幼少の頃両親を亡くし、教会の孤児院に入っていた事を思い出した。

「懐かしいな・・・町外れの教会の孤児院。」

バックが過ぎし日を思い浮かべながら言った。バックはテッドと同い年だったが、童顔で年齢よりも若く見える男だった。

「戻りたいとは思わねぇがな。」

教会の孤児院は劣悪な環境だった。体裁上は慈善事業だが、減税や公的給付金目当てで、子供達にはまともなサービスを施していない教会もあった。そういった荒んだ施設で育った子供達は、窃盗や暴力等を繰り返し大人になる頃には犯罪者に身をやつす者も少なくなかった。

そんな環境でもテッドとバックは助け合い希望を失わなかった。当時、二人は心を許せる唯一の友だった。

「お前、まだあのキャラバンで働いているのか。」

バックが聞いた。

テッドは孤児院にいた頃に、キャラバン『ハイウイングス』の倉庫から品物を盗もうとした所、ベーヴェンに捕まったのがきっかけで後にハイウイングスに入団した。

「まあな。お前の方は目指してた魔導士になれたみたいだな。」

テッドとバックは10歳の時に孤児院から脱走した。テッドはベーヴェンの元に転がり込み、バックは魔導士を目指して、魔導士の聖地ミーノへ旅立った。

それきり音信不通だった二人の10年振りの再会であった。

バックの後ろから一人の女性が近づいてきた。

「アリアだ。俺の嫁さんだよ。ミーノで知り合ったんだ。」

アリアは軽く会釈してテッドに笑いかけた。

「あなたがテッドさんですか。主人からいつも話は聞いてます・・・」

背が高く、凛とした女性だった。

「え!?お前結婚してんの!?」

予想だにしていない事実にテッドは思わずすっとんきょうな声を上げて驚いた。

「子供もいる。まだ3ヶ月だ。」

よく見るとアリアは男の子の赤ん坊を抱いていた。バックと同様、山吹色の髪をした赤ん坊だった。

「・・・な、名前は?」

衝撃的な事実判明の連続に、テッドはそれだけ聞くのが精一杯だった。

「ダンって名付けた。暁って意味だ。かっこいいだろ。」

 

TO BE CONTINUED...

 

次回もお楽しみに〜。