THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−5
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5
次の日、ハイウイングスは復路の物資を調達するため、早朝から宿を引き払い、中央卸売市場に向かった。
テッドは馬をゆっくり進めながら大あくびをした。
「結局夕べは朝まで飲み明かしちまった。」
テッドは眠い目をこすりながら言った。昨晩、テッドは宿でキャラバンの終了ミーティングを終えた後、バックと待ち合わせてモルドウの店で酒を飲み交わした。それぞれの10年の出来事や思い出話に花を咲かせ、気付けば朝だった。
バックは、サイドベイタウンに戻り魔法医療所を個人で開業するとテッドに語っていた。
魔導士の仕事は様々だ。魔法医術を修めて医者として働く者、戦闘魔法に特化し傭兵として働く者、冠婚葬祭の儀式の祈祷魔法を専門に神父として働く者等、それぞれの得意分野に合わせた魔法で働いていた。
二人はサイドベイタウンでの再会を約束し、固い握手を交わし別れたのだった。
「昔の知り合いか。」
ビーゼが聞いた。
「ああ。元気そうで良かったぜ。何も変わってなかったしな。でもあいつが親父とはなぁ・・・。」
「まだ言ってるよ。よほどショックだったのか?」
シューマが笑う。
「結婚して幸せな家庭を作るの、おいらも夢でやす。」
ヘンデンが真面目な顔で言った。
復路の物資を市場で調達した後、一行はサイドベイタウンに向かい出発した。往路よりも荷物の量は増えていた。
往路とは違って、何のトラブルも無く一行はオフナ村まで戻ってきた。
オフナ村での荷下ろし中、テッドは村人からハイウイングスの直前にも、別のキャラバンがサイドベイタウンに向かった事を聞いた。魔法関連の品物を積んだキャラバンだったらしい。
テッドは、昨夜バックがキャラバンに同行して旅をしていると話していたのを思い出した。おそらくバックはそのキャラバンと共に一足先にサイドベイタウンに向かったのだろう。
オフナ村を後にした一行は、平原を進んだ。晴天だった空にいつの間にか厚い雲が出てきた。
「一雨降りそうだな。」
ビーゼが空を見ながら言った。
ふと、キャラバンの進行が止まった。先頭のベーヴェンが止めたらしい。
「何だよ。前方に何かあるのか?」
後ろの方にいるテッド小隊は前の様子がよくわからない。
しかし、平原の向こうから赤い煙が上がっているのが見えた。赤い発煙は、キャラバンの救難信号の目印だった。
「まさか・・・」
テッドは嫌な予感がした。すると前方からベーヴェンの声が聞こえてきた。
「救難信号だ!賊に襲われているかも知れん!行くぞ!」
「おう!!」
ハイウイングスのメンバーは馬を全速力で走らせた。
キャラバンの最優先事項は己の貨物の安全な運搬である。しかし窮地にいる他のキャラバンを助けるのは暗黙のルールであり、キャラバンとしての矜恃であった。
赤い煙の下に近づくと、風に混じって焦げた匂いと血の匂いが流れてきた。
ポツリポツリと、薄暗い空からは細い雨粒が降り始めた。
現場に到着した団員達は、言葉を失った。目の前には凄惨な地獄絵図が広がっていた。
燃えている馬車、荒らされて散乱する積荷・・・。血だまりに倒れているキャラバンの人々は、老若男女関係無く、無惨に殺されていた。
「ひでぇ・・・。」
シューマが絞り出すように呟く。
「生存者を探せ。」
ベーヴェンは一言、低い声で団員達に指示をした。
テッドは動揺を抑え、バックの姿を探した。倒れている者を順に確認するも、皆息絶えており、生存者はいないように思われた。
横倒しになった馬車の陰にバックは倒れていた。胸に深い傷を負っており、白いコートの前面が赤く染まっていた。
「バック!!」
テッドはバックに大声で呼びかけた。バックはまだ生きていた。うっすらと目を開け、テッドを見た。
「・・・テッド・・・」
「どうしてこんな・・・」
テッドは夢であって欲しいと願った。しかしヌルッとした血の感触や匂いは紛れもない現実であった。
「アリアとダンは・・・逃げ切れたのか・・・?」
バックがかすれた声で聞いた。
「わからん。まだ見てない・・・。」
「テッド・・・。二人を頼む・・・」
「おい!しっかりしろ!こんな所で死んでる場合じゃねーだろ!」
「ああ・・・まだこれからだからな・・・。でも分かるんだ。これは助からねえ傷だ。」
テッドはバックの胸の傷を押さえたが、血は止まらず、押さえる指のあいだから溢れてきた。 バックの口元から細い血の筋が伝う。
「俺が頼めるのはお前以外いないんだ。昨日、俺たちが再会したのはきっと運命だったんだ・・・。だからテッド、二人を頼む・・・。」
「・・・・・・わかった。」
テッドは頷いた。
バックは少し安心した表情で、ゆっくり息を吐いた。
「ありがとう、親友。・・・サイドベイタウンの港、もう一度見たかったな・・・。」
そう呟くと、バックは目を閉じて静かに息を引き取った。
テッドは震えが止まらなかった。激しい悲しみと怒りが嵐のように心の中で荒れ狂っていた。
テッドの後ろからシューマが声をかけた。
「テッド・・・。あっちにアリアが・・・。」
アリアはキャラバンから少し離れた場所に倒れていた。背中に矢が刺さっており、既に事切れていた。逃げ切れなかったのだろう。
「・・・赤ん坊は?」
ダンの姿が見当たらなかった。周囲を探していると、突然泣き声が聞こえてきた。泣き声は大きな岩の陰から聞こえてくる。見ると、藁の束を乗せたカーゴの中にダンが隠されていた。
逃げ切れないと悟ったアリアが咄嗟に隠したのだろう。
テッドに抱き上げられると、不思議とダンは泣き止んだ。その小さく、柔らかい感触と無邪気な瞳に、テッドは涙が溢れてきた。
「ちくしょう・・・ちくしょう!」
テッドはシューマにダンを渡すと、馬に飛び乗った。
「おい、テッド!どこいくんだ!」
「まだ犯人は近くにいるはずだ!絶対許さねぇ!殺してやる!」
「待て、テッド!」
ビーゼが制止するも、テッドは聞かず風の様に走り去った。
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜