THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−7
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7
あたりは静かになった。雨の降る音とテッドの乱れた息遣いだけが聞こえる。テッドが息を整えるのにしばらくかかった。
バックとアリアの仇は討った。しかしテッドの気分は全く晴れなかった。
「・・・ちくしょう・・・。」
テッドの頬は涙と雨と埃で汚れていた。
テッドは倒れているサンナスの腕に見覚えのある腕輪がはまっているのに気づいた。バックがしていた物だ。
テッドは馬を降りて、サンナスの腕から腕輪を取り返した。
赤い魔鉱石にテッドの暗い顔が映っている。
その時、次兄ニタッカがふらつきながら立ち上がった。折れた肋骨を押さえている。もう弓は引けないだろう。
「お、お前~、よくもお兄ちゃんとサンナスを・・・。」
テッドはニタッカを睨みつけた。とどめを刺すため、ゆっくりとニタッカに近づく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ボク、怪我してしかも手ぶらだぞ?そんな人間に対して追い打ちかけるの?酷くない?」
ニタッカは後ずさりをしたが、テッドは止まらなかった。
「黙れ。てめえらこそ命乞いする無抵抗の人間を何人殺してきたんだ。」
「え?何人?うーんと、えっと・・・。そんなのいちいち覚えてないよ!」
ニタッカはハッと何かに気づいた顔をした。ポケットを探ると、透明な小瓶を取り出した。茶色液体が入っている。どうやら、キャラバンから奪った荷物のひとつのようだ。
ニタッカは急いで瓶を開けると一気に中の液体を煽った。テッドが怪訝そうな顔でその様子を見つめる。
「うえー、苦い。・・・知ってる?最近は魔導士じゃなくても魔法が使えるようになるアイテムがあるんだぞ?」
ニタッカは不敵な笑みを浮かべた。ニタッカは魔鉱石のはまった指輪をしていた。これもキャラバンから奪ったものだろう。
ニタッカが指輪の手をかかげると、魔鉱石が光った。
「何!?」
ニタッカの指先から火の玉が発せられた。火球はテッドのすぐ横の地面に当たり、爆発した。土と草が飛び散り、テッドは衝撃で地面に倒れた。
「あは、すごいや!これ、面白い!」
ニタッカは興奮して笑い声をあげた。
テッドはすぐに立ち上がった。
ふと、サイドベイタウンのマーケットで手に入れた物を思い出した。魔法が使えるようになる薬だ。
「上等だ!」
テッドはポケットから小瓶を取り出し、中身を飲み干した。身体の中が熱くなり、動悸が激しくなる。血管の中が沸騰し血が逆流するような、心地よいものとは言えない感覚だ。
腕にはめたバックの腕輪の魔鉱石のエネルギーが身体の中に流れ込んでくるのを感じた。テッドの頭の中に雷のイメージが浮かんだ。どうやらこの魔鉱石は自然の電気の力を蓄える性質のようだ。
魔法はイメージ力。テッドはそう聞いたことがある。技のイメージと石のエネルギーが合致すればそれが魔法となって身体の外へと放たれる。
テッドは手の先に意識を集中した。
テッドは鞭のようにしなり、敵を打ち据える攻撃をイメージして、腕を振り下ろした。
テッドの手から青い稲妻が放たれた。稲妻は鞭のように空中でくねると、ニタッカの足元に落ちた。
稲妻はバチバチと音を立て消え、草が黒く焦げた。
「なんだ~!?お前も魔法使えるのか!まねっこはズルいぞ!」
ニタッカはハスキーな声で叫んだ。
「ちっ・・・外した!」
テッドは一気に体力を消耗するのを感じた。魔法を使うのは想像以上に肉体に負担がかかるようだ。あと一回使うのが限界だった。
テッドは腕を振り上げた。
稲妻はテッドの手から天に向かって放たれた。
「どこを狙ってるんだぁ?」
ニタッカが笑った。ニタッカの手の平に火の玉が現れ、今まさに放たれようとしたその時、テッドは腕を振り下ろした。それと同時に天から稲妻が降り注ぎ、ニタッカに直撃した。
「あばばばばばばば!!」
ニタッカは感電し、直立不動の姿勢のまま仰向けに卒倒した。
テッドは一気に体力を放出した感じだった。息が切れ、地面に思わず膝をついた。
テッドは大きく息を吐いた。
「終わった・・・。」
とその時、乾いた銃声が響いた。
振り向くと、末弟サンナスが、長兄イジフジーの銃を構えている。銃口からは白い硝煙が登っている。
テッドは自分の身体を見下ろした。右脇腹からジワリと血が滲む。撃たれた激痛が遅れてやってきた。
「くそ・・・」
テッドは剣を支えにして立つのがやっとだった。
「なめんじゃないわよ!」
サンナスが血走った目で叫んだ。頭から血が伝い、顔が真っ赤に染まっている。
サンナスは銃をテッドの心臓に狙いを定めた。
テッドは動けない。死を覚悟して思わず目を固くつむった。
再び銃声が響く。
しかし弾丸が命中した様子は無い。テッドは恐る恐る目を開けた。するとそこには山のように大きな背中があった。
「この大馬鹿野郎。」
大きな背中が聞き覚えのある声で喋った。団長ベーヴェンであった。
ベーヴェンはテッドの前に立ちふさがり、弾丸を胸に受けていた。しかし弾丸は鋼の様な筋肉で止められ、ベーヴェンにほとんどダメージを与えていなかった。
「団長!?」
「な、何よアンタ!?」
サンナスは咄嗟に逃げようとしたが、ベーヴェンの巨大な手に首を掴まれた。ベーヴェンが手を少し捻ると、サンナスは「キュッ」とネズミが潰れたような声をあげ、泡を吹いて失神した。
サンナスを地面に放ると、ベーヴェンはテッドの方を向いた。
「・・・言い訳はしねぇよ。」
テッドはうつむいて言った。
「気持ちはわかる。しかし感情に任せて行動するな。如何なる時でもだ。」
ベーヴェンは静かに語った。
「ああ、小隊長として、いやキャラバンの団員として失格だ・・・。」
「それは二の次だ。」
「え?」
「死ぬな。お前が死んだら悲しむ人間がいる。」
ベーヴェンの背後の少し離れた場所にはハイウイングスのメンバーが並んで見守っていた。
「だから、死ぬな。」
ベーヴェンはそれだけ言うとテッドの肩を叩いた。
テッドは肩を震わせて泣いた。
ダンを抱きかかえたシューマが近づいてきて、テッドに言った。
「帰ろうぜ、テッド。俺たちの町へ。」
TO BE CONTINUED...
次回、サブエピソード1の最終章です。お楽しみに〜。