THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−8
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http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
8
日が傾く頃、雨はすっかり上がっていた。サイドベイタウンは、雨に濡れ西陽を受けて輝いている。
カフェ・オーシャンズではクレアが忙しく働いていた。
「そろそろ皆帰ってくる頃だね。」
ミネアが壁の振り子時計を見ながら言った。
しばらくすると、ガヤガヤと騒がしい一団が店に入ってきた。ハイウイングスのメンバー達である。彼らは仕事を終えた後、この店で打ち上げをするのが恒例となっていた。
クレアはテッドの姿を探したが、見当たらなかった。
「ねぇヘンデン、テッドは?」
「ああ、すぐ来るでやすよ。あの子と一緒だからゆっくり歩いてるでやす。」
「あの子?」
その時、テッドが店に入ってきた。腕にはダンを抱いている。ダンはすやすやとよく眠っていた。クレアは目を丸くしてテッドの腕の中の赤ん坊を見つめた。
「え?何、その子!?」
「俺の隠し子。」
「・・・・・・え」
クレアは固まった。
「んな訳ねーだろ。冗談だよ。昔のダチの子供だ。」
テッドは笑いながら言った。
「バカ!!」
クレアは持っていた大きなマグカップでテッドの頭をどついた。
「いってぇ!何で殴るんだよ!」
「うるさい!何でアンタの友達の子がここにいるのよ!」
「途中で盗賊に襲われたキャラバンを見つけてな。」
ビーゼが説明する。
「ひでぇもんさ・・・皆殺しだ。その子だけは岩場の裏に隠されて無事だったんだ。」
シューマが眉を寄せて首を振る。
「え、じゃあアンタの友達、というかその子の両親は・・・」
団員達は押し黙った。
「・・・その子、これからどうするの?」
「俺が育てる。」
テッドはキッパリと言い切った。
「無理よ!アンタずぼらで不器用で短気で飽きっぽいもん!」
クレアは完全否定した。
「・・・お前、もうちょっと言い方があるだろ。」
「クレアちゃんの言う通りだぜ。現実問題、教会の孤児院に託すしかねーんじゃないの?お前がいた頃より環境はだいぶ良くなってるって聞くぜ?」
シューマが言う。
「ダメだ!多少変わろうが、教会の孤児院なんて、ろくな所じゃねー事には変わりねーよ!」
その時、ベーヴェンが後ろから話しかけてきた。
「お前、自分がしようとしてる事、わかってるんだろうな。ひと一人育てるのはイヌやネコを飼うのと違うんだぞ。」
「ああ、わかってる。甘くねぇって事は。でも、コイツの親は俺に子供を託して死んだ。」
ジッとダンを見つめながらテッドが言った。
「俺が育てねえで、誰が育てるんだよ。」
テッドの決意は固かった。
「でも実際、お前一人じゃ育てられねぇだろ。仕事もあるし・・・。」
シューマが言う。テッドはミネアの方をチラッと見た。ミネアと目が合う。
「ミネア、頼む。協力してくれねえか。この通りだ。」
テッドは深々と頭を下げて頼み込んだ。
「しょうがないねえ。言い出したら聞かないんだから。」
ミネアがやれやれと言う顔で笑った。
「わかったよ。あたし達ができる事はするよ。でも決めた以上、アンタが親として責任持って育てるんだよ?」
「ああ!ありがとう!」
テッドは大声で礼を言った。
「本当に大丈夫か?」
ビーゼがテッドに念を押す。
「大丈夫だって。俺は次期団長の男だぜ!?ガキ一人育てられねーで、団長がつとまるわけねーだろ!」
テッドは大口を叩いた。すっかりいつものテッドに戻っていた。ビーゼは何も言わず、フッと笑った。
「また言ってるよ、このビッグマウスが!」
「お前が団長なんて、100年早えよ!」
他の団員が口々に笑いながらツッコミを入れる。
ベーヴェンは黙ってその様子を後ろから見守っていた。
「今日からここがお前の家だ。そして俺がお前の親父だ。よろしくな、ダン。」
テッドはダンの安らかな寝顔にそっと話しかけた。
The End
以上で、サブエピソード終了です。
漫画でなく文字でどこまで自分のストーリーを表現できるかの試みで書いてみました。登場人物の感情とか、その場の空気感とか、意外と絵で表現する方が楽だったりして、なかなか難しかったですが勉強になりました。
⭐️オマケ⭐️
サブエピソード登場人物集
次回から、THE MAGIC CRAFT 本編チャプター2をスタートします!
お楽しみに〜