THE MAGIC CRAFT 2-1
オハヨウゴザイマス。TジョニーTです。
ロールプレイングコミック”THE MAGIC CRAFT”、チャプター2開始します。
※チャプター1から読む場合はこちらからTHE MAGIC CRAFT 1−1 - T.ジョニーT.の雑記帳
チャプター2ですが、原稿は完成していますが、私とプログラム担当の友人が仕事や家庭の事情で多忙となり完成までは至らず頓挫しています。
じゃあ俺がプログラムからやるか〜と考えていましたが…そんなすんなりできるような甘いもんじゃなく…撃沈(T▽T)
チャプター1は強引でもいいから全力で立ち向かうというノリのストーリーでした(ゲームパートも、結構ゴリ押しでなんとなかなる仕様でしたw)が、チャプター2はちょっと違います。
主人公ダンは前回同様、全力で頑張りますが、いろんな壁にぶち当たります。一朝一夕では超えられない色々な壁を目の前に、どうするか??という問いかけでもあります。
ゲームパートも、戦略性を持たせたり色々な試みを組み込む想定で漫画を展開しています。
まあ…頓挫していますが…。
チャプター3以降は漫画もできていませんし、どうしようかも考えていませんが…。
……。
とりあえず!
THE MAGIC CRAFT チャプター2
始まるよ〜!
⭐️解説⭐️
ここでお使いミッション発生。
各仕入れ先に、積荷リストに記載してある正しい商品と数量を引き取りに行きます。
(商品種類と数量はランダムで変化)
行き先はマップ画面でポイント表示されます。
❗️カフェ・オーシャンズ
❗️酒蔵
❗️薬調合所
❗️反物屋
❗️農家
❗️ひもの屋
❗️キャラバンのアジト
全ての店を回ったら、キャラバンのアジトに向かいます。
ちなみにモタついて時間かかりすぎていたら、怒られます。
⭐️解説⭐️
団長のキビしいチェックが入ります。
一つでも間違ったら、はじめから巡回し直しという鬼ルール。実際はもうちょっと手加減したシステムにしないと、プレイしていてダレるよな〜と思ってます。
実際、試験プレイでは何回もやり直しを食らって団長をぶん殴りたくなりました。
❗️やり直し
❗️クリア
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜!
(毎日更新予定)
・・・・・・・・・・・・・・・・・
⭐️オマケ⭐️
●団長にやり直しを食らうと、各仕入れ先にツッコミを入れられます。
❗️カフェ・オーシャンズ
❗️酒蔵
❗️薬調合所
❗️反物屋
❗️農家
❗️ひもの屋
●その他ボツ
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−8
初めから読む場合はこちらから
http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
8
日が傾く頃、雨はすっかり上がっていた。サイドベイタウンは、雨に濡れ西陽を受けて輝いている。
カフェ・オーシャンズではクレアが忙しく働いていた。
「そろそろ皆帰ってくる頃だね。」
ミネアが壁の振り子時計を見ながら言った。
しばらくすると、ガヤガヤと騒がしい一団が店に入ってきた。ハイウイングスのメンバー達である。彼らは仕事を終えた後、この店で打ち上げをするのが恒例となっていた。
クレアはテッドの姿を探したが、見当たらなかった。
「ねぇヘンデン、テッドは?」
「ああ、すぐ来るでやすよ。あの子と一緒だからゆっくり歩いてるでやす。」
「あの子?」
その時、テッドが店に入ってきた。腕にはダンを抱いている。ダンはすやすやとよく眠っていた。クレアは目を丸くしてテッドの腕の中の赤ん坊を見つめた。
「え?何、その子!?」
「俺の隠し子。」
「・・・・・・え」
クレアは固まった。
「んな訳ねーだろ。冗談だよ。昔のダチの子供だ。」
テッドは笑いながら言った。
「バカ!!」
クレアは持っていた大きなマグカップでテッドの頭をどついた。
「いってぇ!何で殴るんだよ!」
「うるさい!何でアンタの友達の子がここにいるのよ!」
「途中で盗賊に襲われたキャラバンを見つけてな。」
ビーゼが説明する。
「ひでぇもんさ・・・皆殺しだ。その子だけは岩場の裏に隠されて無事だったんだ。」
シューマが眉を寄せて首を振る。
「え、じゃあアンタの友達、というかその子の両親は・・・」
団員達は押し黙った。
「・・・その子、これからどうするの?」
「俺が育てる。」
テッドはキッパリと言い切った。
「無理よ!アンタずぼらで不器用で短気で飽きっぽいもん!」
クレアは完全否定した。
「・・・お前、もうちょっと言い方があるだろ。」
「クレアちゃんの言う通りだぜ。現実問題、教会の孤児院に託すしかねーんじゃないの?お前がいた頃より環境はだいぶ良くなってるって聞くぜ?」
シューマが言う。
「ダメだ!多少変わろうが、教会の孤児院なんて、ろくな所じゃねー事には変わりねーよ!」
その時、ベーヴェンが後ろから話しかけてきた。
「お前、自分がしようとしてる事、わかってるんだろうな。ひと一人育てるのはイヌやネコを飼うのと違うんだぞ。」
「ああ、わかってる。甘くねぇって事は。でも、コイツの親は俺に子供を託して死んだ。」
ジッとダンを見つめながらテッドが言った。
「俺が育てねえで、誰が育てるんだよ。」
テッドの決意は固かった。
「でも実際、お前一人じゃ育てられねぇだろ。仕事もあるし・・・。」
シューマが言う。テッドはミネアの方をチラッと見た。ミネアと目が合う。
「ミネア、頼む。協力してくれねえか。この通りだ。」
テッドは深々と頭を下げて頼み込んだ。
「しょうがないねえ。言い出したら聞かないんだから。」
ミネアがやれやれと言う顔で笑った。
「わかったよ。あたし達ができる事はするよ。でも決めた以上、アンタが親として責任持って育てるんだよ?」
「ああ!ありがとう!」
テッドは大声で礼を言った。
「本当に大丈夫か?」
ビーゼがテッドに念を押す。
「大丈夫だって。俺は次期団長の男だぜ!?ガキ一人育てられねーで、団長がつとまるわけねーだろ!」
テッドは大口を叩いた。すっかりいつものテッドに戻っていた。ビーゼは何も言わず、フッと笑った。
「また言ってるよ、このビッグマウスが!」
「お前が団長なんて、100年早えよ!」
他の団員が口々に笑いながらツッコミを入れる。
ベーヴェンは黙ってその様子を後ろから見守っていた。
「今日からここがお前の家だ。そして俺がお前の親父だ。よろしくな、ダン。」
テッドはダンの安らかな寝顔にそっと話しかけた。
The End
以上で、サブエピソード終了です。
漫画でなく文字でどこまで自分のストーリーを表現できるかの試みで書いてみました。登場人物の感情とか、その場の空気感とか、意外と絵で表現する方が楽だったりして、なかなか難しかったですが勉強になりました。
⭐️オマケ⭐️
サブエピソード登場人物集
次回から、THE MAGIC CRAFT 本編チャプター2をスタートします!
お楽しみに〜
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−7
初めから読む場合はこちらから
http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
7
あたりは静かになった。雨の降る音とテッドの乱れた息遣いだけが聞こえる。テッドが息を整えるのにしばらくかかった。
バックとアリアの仇は討った。しかしテッドの気分は全く晴れなかった。
「・・・ちくしょう・・・。」
テッドの頬は涙と雨と埃で汚れていた。
テッドは倒れているサンナスの腕に見覚えのある腕輪がはまっているのに気づいた。バックがしていた物だ。
テッドは馬を降りて、サンナスの腕から腕輪を取り返した。
赤い魔鉱石にテッドの暗い顔が映っている。
その時、次兄ニタッカがふらつきながら立ち上がった。折れた肋骨を押さえている。もう弓は引けないだろう。
「お、お前~、よくもお兄ちゃんとサンナスを・・・。」
テッドはニタッカを睨みつけた。とどめを刺すため、ゆっくりとニタッカに近づく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ボク、怪我してしかも手ぶらだぞ?そんな人間に対して追い打ちかけるの?酷くない?」
ニタッカは後ずさりをしたが、テッドは止まらなかった。
「黙れ。てめえらこそ命乞いする無抵抗の人間を何人殺してきたんだ。」
「え?何人?うーんと、えっと・・・。そんなのいちいち覚えてないよ!」
ニタッカはハッと何かに気づいた顔をした。ポケットを探ると、透明な小瓶を取り出した。茶色液体が入っている。どうやら、キャラバンから奪った荷物のひとつのようだ。
ニタッカは急いで瓶を開けると一気に中の液体を煽った。テッドが怪訝そうな顔でその様子を見つめる。
「うえー、苦い。・・・知ってる?最近は魔導士じゃなくても魔法が使えるようになるアイテムがあるんだぞ?」
ニタッカは不敵な笑みを浮かべた。ニタッカは魔鉱石のはまった指輪をしていた。これもキャラバンから奪ったものだろう。
ニタッカが指輪の手をかかげると、魔鉱石が光った。
「何!?」
ニタッカの指先から火の玉が発せられた。火球はテッドのすぐ横の地面に当たり、爆発した。土と草が飛び散り、テッドは衝撃で地面に倒れた。
「あは、すごいや!これ、面白い!」
ニタッカは興奮して笑い声をあげた。
テッドはすぐに立ち上がった。
ふと、サイドベイタウンのマーケットで手に入れた物を思い出した。魔法が使えるようになる薬だ。
「上等だ!」
テッドはポケットから小瓶を取り出し、中身を飲み干した。身体の中が熱くなり、動悸が激しくなる。血管の中が沸騰し血が逆流するような、心地よいものとは言えない感覚だ。
腕にはめたバックの腕輪の魔鉱石のエネルギーが身体の中に流れ込んでくるのを感じた。テッドの頭の中に雷のイメージが浮かんだ。どうやらこの魔鉱石は自然の電気の力を蓄える性質のようだ。
魔法はイメージ力。テッドはそう聞いたことがある。技のイメージと石のエネルギーが合致すればそれが魔法となって身体の外へと放たれる。
テッドは手の先に意識を集中した。
テッドは鞭のようにしなり、敵を打ち据える攻撃をイメージして、腕を振り下ろした。
テッドの手から青い稲妻が放たれた。稲妻は鞭のように空中でくねると、ニタッカの足元に落ちた。
稲妻はバチバチと音を立て消え、草が黒く焦げた。
「なんだ~!?お前も魔法使えるのか!まねっこはズルいぞ!」
ニタッカはハスキーな声で叫んだ。
「ちっ・・・外した!」
テッドは一気に体力を消耗するのを感じた。魔法を使うのは想像以上に肉体に負担がかかるようだ。あと一回使うのが限界だった。
テッドは腕を振り上げた。
稲妻はテッドの手から天に向かって放たれた。
「どこを狙ってるんだぁ?」
ニタッカが笑った。ニタッカの手の平に火の玉が現れ、今まさに放たれようとしたその時、テッドは腕を振り下ろした。それと同時に天から稲妻が降り注ぎ、ニタッカに直撃した。
「あばばばばばばば!!」
ニタッカは感電し、直立不動の姿勢のまま仰向けに卒倒した。
テッドは一気に体力を放出した感じだった。息が切れ、地面に思わず膝をついた。
テッドは大きく息を吐いた。
「終わった・・・。」
とその時、乾いた銃声が響いた。
振り向くと、末弟サンナスが、長兄イジフジーの銃を構えている。銃口からは白い硝煙が登っている。
テッドは自分の身体を見下ろした。右脇腹からジワリと血が滲む。撃たれた激痛が遅れてやってきた。
「くそ・・・」
テッドは剣を支えにして立つのがやっとだった。
「なめんじゃないわよ!」
サンナスが血走った目で叫んだ。頭から血が伝い、顔が真っ赤に染まっている。
サンナスは銃をテッドの心臓に狙いを定めた。
テッドは動けない。死を覚悟して思わず目を固くつむった。
再び銃声が響く。
しかし弾丸が命中した様子は無い。テッドは恐る恐る目を開けた。するとそこには山のように大きな背中があった。
「この大馬鹿野郎。」
大きな背中が聞き覚えのある声で喋った。団長ベーヴェンであった。
ベーヴェンはテッドの前に立ちふさがり、弾丸を胸に受けていた。しかし弾丸は鋼の様な筋肉で止められ、ベーヴェンにほとんどダメージを与えていなかった。
「団長!?」
「な、何よアンタ!?」
サンナスは咄嗟に逃げようとしたが、ベーヴェンの巨大な手に首を掴まれた。ベーヴェンが手を少し捻ると、サンナスは「キュッ」とネズミが潰れたような声をあげ、泡を吹いて失神した。
サンナスを地面に放ると、ベーヴェンはテッドの方を向いた。
「・・・言い訳はしねぇよ。」
テッドはうつむいて言った。
「気持ちはわかる。しかし感情に任せて行動するな。如何なる時でもだ。」
ベーヴェンは静かに語った。
「ああ、小隊長として、いやキャラバンの団員として失格だ・・・。」
「それは二の次だ。」
「え?」
「死ぬな。お前が死んだら悲しむ人間がいる。」
ベーヴェンの背後の少し離れた場所にはハイウイングスのメンバーが並んで見守っていた。
「だから、死ぬな。」
ベーヴェンはそれだけ言うとテッドの肩を叩いた。
テッドは肩を震わせて泣いた。
ダンを抱きかかえたシューマが近づいてきて、テッドに言った。
「帰ろうぜ、テッド。俺たちの町へ。」
TO BE CONTINUED...
次回、サブエピソード1の最終章です。お楽しみに〜。
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−6
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http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
6
冷たく細い雨は降り続いていた。遠くで雷の轟きが聞こえる。
3頭の馬に乗った男達が道のない平原を歩いている。
「楽勝だったな、今日の仕事は。」
黒ずくめの服を着た、背の低い男がボソボソと喋った。
「そうだね、お兄ちゃん!ボク、沢山やっつけたよ!」
丸々と太り、禿げ上がった頭の男がハスキーな声で返した。
「んもう、早く帰ってお風呂には入りたいわ。血の匂いが臭くてたまらないわよ。」
カラフルな服を着た、背の高い男がダミ声で言う。
「ん?後ろから誰か来るよ?」
3人は後ろを振り返った。テッドの馬がものすごい勢いで追いつき、3人の前に回り込んだ。
「・・・お前らか?」
テッドは聞いたが、答えを待つまでも無かった。3人の服には返り血が付き、馬の鞍にぶら下げた籠の中には魔法関連の荷物が無造作に積まれていたからだ。この3人がバックとキャラバンを皆殺しにした犯人である事は明白だった。
「何だ貴様は。」
背の低い男がムッとして言った。
「許さねぇ!ぶっ殺してやる!」
「お兄ちゃん、この人頭悪いのかなぁ。僕らに喧嘩売ってるみたいだよ?」
丸い男がトボけたような口調で言う。
「あたし達の事を知らないのねぇ。ドリム兄弟と言えば有名なのに。無知って怖いわぁ。」
背の高い男がやれやれと言うように首を振った。
ドリム兄弟についてはテッドも聞いた事があった。名の知れた3兄弟の盗賊である。
長兄イジフジーは子供にも間違えられそうなほど背が低いが、眉一つ動かさず人を殺す残忍な男だった。
次兄ニタッカは肥満体型で、無邪気で人懐っこそうに見えるが、人が苦しむのを見て面白がる人間だ。
末弟のサンナスは背が高くヒゲの剃り跡も青々とした男だが、女のような挙措動作や喋り方で、冷酷な性格だった。
この3兄弟の盗賊は少し前に捕縛され裁判で死刑判決を受けたと新聞には載っていた。
「ようやく脱獄したんだ。このままサイドベイタウンの港から密航して高飛びする邪魔は誰にもさせねぇよ。」
長兄イジフジーが低い声で呟いて、剣をゆっくりと抜いた。次兄ニタッカは弓を構え、末弟サンナスは馬の鞍から槍を引き抜いた。
テッドは盗賊を睨みつけ、護身刀を抜き払うと馬に乗ったまま盗賊に突進した。
テッドは長兄イジフジーに斬りかかった。すれ違いざま斬り結び、火花が散る。僅かにテッドの方が力が上だった。イジフジーの頬にかすり傷を負わせた。
「いける!」
テッドは素早く馬を方向転換させ、追撃を仕掛けようとした。
その時、ニタッカが矢を放ちテッドの太ももに命中した。
「・・・くそっ!」
テッドは痛みに堪え、体勢を立て直し、標的を変えて次兄ニタッカに斬りかかった。大型の弓を装備していたニタッカは、テッドに向けて矢を放ったが、テッドは怯むことなく剣で矢をはたき落とした。
「えっ?」
テッドの予想外の動きにニタッカは慌てた。そのままテッドは一気に距離を詰め、ニタッカの胴に渾身の一撃を打ち込んだ。
肋骨がへし折れる音がして、ニタッカは落馬した。地面でのたうちまわっている。
「い、痛い~!お兄ちゃん、痛ぇよ~!」
「馬鹿ね、ニタッカ兄さん。油断するからよ。」
サンナスが冷めた目でニタッカを見下ろす。イジフジーは見ようともせず、悶える弟を無視していた。
テッドは間髪入れず末弟サンナスに斬りかかったが、サンナスの長い槍に弾かれてしまった。槍の間合いは剣の倍以上ある。懐にさえ飛び込めば剣は有利だが、自由が効かない馬上の戦いでは圧倒的に不利だった。
鋭い突きがテッドの肩をかすり、服が破れ血が散った。テッドはバランスを崩しながらもなんとか踏ん張った。
その隙を狙ってイジフジーが斬りかかってきたが、テッドが体勢を立て直す方が一瞬早かった。斬り結んだ瞬間、イジフジーの剣が宙を舞い、草むらに落ちた。
「ちっ!」
イジフジーは舌打ちし、懐から小型の拳銃を取り出した。銃口が縦に二つ並んだ二連式の単発銃である。
しかし、イジフジーが銃の狙いを定めるよりも、テッドの剣がイジフジーの顔面にめり込み鼻をへし折る方が早かった。
イジフジーは大量の鼻血を吹き出して落馬した。地面に突っ伏して倒れ、ビクンビクンと痙攣している。
「次はお前だ!」
テッドは獣の様に吼え、サンナスを睨みつけた。
「全く・・・イジフジー兄さんも情けない。嫌になっちゃうわ。ずっと雨の中にいて、あたしが風邪ひいたらどうしてくれるつもり、アンタ?」
サンナスはブツブツと文句を言ったが、テッドは聞いていなかった。
テッドはサンナスに突進した。間合いが剣の倍以上ある槍に勝つには懐に飛び込むしかない。
サンナスは鋭い突きを繰り出した。
テッドは身体を捻り剣で槍を弾き、攻撃を逸らした。
テッドは槍の柄を掴み、攻撃を封じつつサンナスの脳天を狙い剣を振り上げた。
しかしサンナスは思ったよりも力が強く、槍の引っ張り合いでテッドの手は振りほどかれてしまった。
テッドはその拍子に槍先で手を切ってしまい、バランスを崩した。
「ちっ!」
サンナスは鋭い突きを繰り出してきたが、テッドは身体を捻り攻撃をかわし、槍を真横から叩き斬った。
木製の槍の柄は乾いた音を立ててへし折れ、槍先は落ちて地面に突き刺さった。
間髪いれず、テッドはサンナスの脳天に強烈な一撃を見舞った。
サンナスは声ひとつ上げず、昏倒した。
「地獄に落ちろ!クズ野郎ども!」
テッドは息を切らしながら、倒れた三人に向かって吠えた。
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜!
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−5
初めから読む場合はこちらから
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5
次の日、ハイウイングスは復路の物資を調達するため、早朝から宿を引き払い、中央卸売市場に向かった。
テッドは馬をゆっくり進めながら大あくびをした。
「結局夕べは朝まで飲み明かしちまった。」
テッドは眠い目をこすりながら言った。昨晩、テッドは宿でキャラバンの終了ミーティングを終えた後、バックと待ち合わせてモルドウの店で酒を飲み交わした。それぞれの10年の出来事や思い出話に花を咲かせ、気付けば朝だった。
バックは、サイドベイタウンに戻り魔法医療所を個人で開業するとテッドに語っていた。
魔導士の仕事は様々だ。魔法医術を修めて医者として働く者、戦闘魔法に特化し傭兵として働く者、冠婚葬祭の儀式の祈祷魔法を専門に神父として働く者等、それぞれの得意分野に合わせた魔法で働いていた。
二人はサイドベイタウンでの再会を約束し、固い握手を交わし別れたのだった。
「昔の知り合いか。」
ビーゼが聞いた。
「ああ。元気そうで良かったぜ。何も変わってなかったしな。でもあいつが親父とはなぁ・・・。」
「まだ言ってるよ。よほどショックだったのか?」
シューマが笑う。
「結婚して幸せな家庭を作るの、おいらも夢でやす。」
ヘンデンが真面目な顔で言った。
復路の物資を市場で調達した後、一行はサイドベイタウンに向かい出発した。往路よりも荷物の量は増えていた。
往路とは違って、何のトラブルも無く一行はオフナ村まで戻ってきた。
オフナ村での荷下ろし中、テッドは村人からハイウイングスの直前にも、別のキャラバンがサイドベイタウンに向かった事を聞いた。魔法関連の品物を積んだキャラバンだったらしい。
テッドは、昨夜バックがキャラバンに同行して旅をしていると話していたのを思い出した。おそらくバックはそのキャラバンと共に一足先にサイドベイタウンに向かったのだろう。
オフナ村を後にした一行は、平原を進んだ。晴天だった空にいつの間にか厚い雲が出てきた。
「一雨降りそうだな。」
ビーゼが空を見ながら言った。
ふと、キャラバンの進行が止まった。先頭のベーヴェンが止めたらしい。
「何だよ。前方に何かあるのか?」
後ろの方にいるテッド小隊は前の様子がよくわからない。
しかし、平原の向こうから赤い煙が上がっているのが見えた。赤い発煙は、キャラバンの救難信号の目印だった。
「まさか・・・」
テッドは嫌な予感がした。すると前方からベーヴェンの声が聞こえてきた。
「救難信号だ!賊に襲われているかも知れん!行くぞ!」
「おう!!」
ハイウイングスのメンバーは馬を全速力で走らせた。
キャラバンの最優先事項は己の貨物の安全な運搬である。しかし窮地にいる他のキャラバンを助けるのは暗黙のルールであり、キャラバンとしての矜恃であった。
赤い煙の下に近づくと、風に混じって焦げた匂いと血の匂いが流れてきた。
ポツリポツリと、薄暗い空からは細い雨粒が降り始めた。
現場に到着した団員達は、言葉を失った。目の前には凄惨な地獄絵図が広がっていた。
燃えている馬車、荒らされて散乱する積荷・・・。血だまりに倒れているキャラバンの人々は、老若男女関係無く、無惨に殺されていた。
「ひでぇ・・・。」
シューマが絞り出すように呟く。
「生存者を探せ。」
ベーヴェンは一言、低い声で団員達に指示をした。
テッドは動揺を抑え、バックの姿を探した。倒れている者を順に確認するも、皆息絶えており、生存者はいないように思われた。
横倒しになった馬車の陰にバックは倒れていた。胸に深い傷を負っており、白いコートの前面が赤く染まっていた。
「バック!!」
テッドはバックに大声で呼びかけた。バックはまだ生きていた。うっすらと目を開け、テッドを見た。
「・・・テッド・・・」
「どうしてこんな・・・」
テッドは夢であって欲しいと願った。しかしヌルッとした血の感触や匂いは紛れもない現実であった。
「アリアとダンは・・・逃げ切れたのか・・・?」
バックがかすれた声で聞いた。
「わからん。まだ見てない・・・。」
「テッド・・・。二人を頼む・・・」
「おい!しっかりしろ!こんな所で死んでる場合じゃねーだろ!」
「ああ・・・まだこれからだからな・・・。でも分かるんだ。これは助からねえ傷だ。」
テッドはバックの胸の傷を押さえたが、血は止まらず、押さえる指のあいだから溢れてきた。 バックの口元から細い血の筋が伝う。
「俺が頼めるのはお前以外いないんだ。昨日、俺たちが再会したのはきっと運命だったんだ・・・。だからテッド、二人を頼む・・・。」
「・・・・・・わかった。」
テッドは頷いた。
バックは少し安心した表情で、ゆっくり息を吐いた。
「ありがとう、親友。・・・サイドベイタウンの港、もう一度見たかったな・・・。」
そう呟くと、バックは目を閉じて静かに息を引き取った。
テッドは震えが止まらなかった。激しい悲しみと怒りが嵐のように心の中で荒れ狂っていた。
テッドの後ろからシューマが声をかけた。
「テッド・・・。あっちにアリアが・・・。」
アリアはキャラバンから少し離れた場所に倒れていた。背中に矢が刺さっており、既に事切れていた。逃げ切れなかったのだろう。
「・・・赤ん坊は?」
ダンの姿が見当たらなかった。周囲を探していると、突然泣き声が聞こえてきた。泣き声は大きな岩の陰から聞こえてくる。見ると、藁の束を乗せたカーゴの中にダンが隠されていた。
逃げ切れないと悟ったアリアが咄嗟に隠したのだろう。
テッドに抱き上げられると、不思議とダンは泣き止んだ。その小さく、柔らかい感触と無邪気な瞳に、テッドは涙が溢れてきた。
「ちくしょう・・・ちくしょう!」
テッドはシューマにダンを渡すと、馬に飛び乗った。
「おい、テッド!どこいくんだ!」
「まだ犯人は近くにいるはずだ!絶対許さねぇ!殺してやる!」
「待て、テッド!」
ビーゼが制止するも、テッドは聞かず風の様に走り去った。
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−4
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4
キャラバン「ハイウイングス」はハクネ山脈を越え、更に進んだ。山脈を越えると森が広がっている。森の中に拓かれた南北に伸びる一本道は真っ直ぐカサキシティに繋がっている。
キャラバンは三叉路に差し掛かった。
南北に伸びる一本道に、東の方角から伸びてきた道が繋がっている。
木の標識にはこう彫られている。
「↑北・カサキシティ、↓南・サイドベイタウン、→東・シナー河」
カサキシティは東西南北からの物流が交差する大きな貿易都市である。町に近づく程、他の地方とカサキシティを繋ぐ道が幾つも合流して、道が広くなってくる。地面の馬車の轍も増え、貿易街道として栄えている事を示していた。
しばらく進むと、カサキシティが見えてきた。町の1キロ程手前から街道は石畳になっている。
カサキシティは外部からの賊の侵入を防ぐため高い塀に囲まれており、塀の東西南北にそれぞれ重厚な鉄格子の門が構えている。
日没の直前、ハイウイングスは南門に到着した。あたりはすっかり暗くなって、塀にかけられた松明が煌々と鉄の門を照らしていた。
ベーヴェンが門番に通行許可証を見せると、すぐに鉄の門が開いた。
町に到着しても、キャラバンに一息つく暇は無い。卸売市場や小売業者に物資を届けなければならない。
ここからは小隊は解散し、品物の種別ごとに手分けして配達する。
テッド小隊の担当貨物は香辛料である。食品は大概は卸売市場に卸されるが、特殊な品は直接小売店や飲食店に卸される。
「ヘンデンとビーゼの香辛料は市場行きだな。おれとシューマのは一番街のモルドウのおっさんの店に卸す。終わったら宿に集合だ。」
この町は中央に巨大な卸売市場があり、そこから東西南北の門に向かって十字にメインストリートが伸びている。ストリートを境に一番から四番街として区切られている。
団員の多くは町の中央卸売市場に、それ以外はそれぞれの届け先に向かった。
テッドとシューマは日が暮れても多くの人が行き交う一番街を、馬を引いて歩いた。街灯や窓の光が夜の街を明るく彩っている。パブやカジノが多いこの通りは夜にこそ活気づく。
「いいなぁ。カジノで一山当ててパーッといきてぇな。」
シューマがカジノの看板を見ながら言った。
目的地はストリートの一角に構える大きなレストランだった。窓から覗くと大勢の客で賑わっている。
テッドは裏口へ回った。扉を開けると厨房では背の低い白髪のコックが忙しそうに料理をしていた。レストランのオーナーシェフ、モルドウである。
「おう、テッドか!ご苦労さん!悪りいが見ての通り手が離せねぇ。代金はそこに置いてあるから適当に置いて行ってくれ。」
「毎度あり。また何でも言ってくれ。」
荷下ろしを終え、テッドは達成感と少しの疲労感を感じながらモルドウの店を後にした。
表通りに戻ると何やら人だかりができて、道が塞がれていた。二人の男が怒鳴りあっている。どうやらカジノの賭け勝負でイカサマをしたかしないかで揉めているようだ。
「おいおい、喧嘩かよ。やるのは勝手だけど、通行の邪魔すんなよ・・・」
シューマがため息をつきながら言う。
フード付きの白いコートを着た男が二人の仲裁に入っているようだったが、収まる気配は無かった。
言い合いをしている一方の男がおもむろにナイフを取り出した。野次馬からどよめきと小さな悲鳴が上がった。
「げっ、マジかよあいつ!ヤバイぞ!」
ナイフの男が相手に襲いかかろうとしたその時、突然周囲を白い閃光が包んだ。その場にいる人間は叫び思わず身をかがめた。
一瞬の空白の時間が流れる。
閃光で眩んだ視界が回復してくると、テッドは目をこすって目の前の光景を見た。
喧嘩をしていた二人は地面に倒れており、仲裁に入っていた白いコートの男だけが立っていた。
「今何が起きた?」
「二人共死んだのか?」
周囲の野次馬がひそひそと呟く。
「心配ありません。軽いショックを当てて気絶させただけです。すぐに目覚めるでしょう。」
白い男は周囲に向けて説明した。男は腕輪をしていた。腕輪には赤い宝石がはめこまれている。魔鉱石だ。
「あいつ・・・魔導士だぜ、テッド。魔鉱石の魔法で気絶させたんだ。」
シューマがテッドに囁いた。
魔鉱石と呼ばれる石は自然の様々なエネルギーを凝縮し蓄える働きがある。そのエネルギーを自在に引き出し使う技は魔法や魔導術と呼ばれ、その技を使える者は魔導士と呼ばれた。魔法を使うには厳しい肉体的、精神的修練が必要であり、一般人には使うことができない。
男が頭のフードを取った。男の髪は透き通るような山吹色をしていた。光の当たり具合によって髪の影がエメラルドグリーンにも見える。
その印象的な頭髪に、テッドは見覚えがあった。
「バック!?お前、バックか!」
テッドが大きな声で呼びかけると、バックと呼ばれた山吹色の髪の男が振り向いた。
「テッド!」
バックはテッドを見ると驚いたが、すぐに笑顔を見せた。
「・・・久しぶりだなぁ、おい!」
二人は互いの肩を叩いて喜んだ。
「知り合いか?」
傍で見ていたシューマが聞いた。
「おう、こいつはバック。サイドベイタウンでガキの頃一緒に育ったんだ。」
シューマは、テッドが幼少の頃両親を亡くし、教会の孤児院に入っていた事を思い出した。
「懐かしいな・・・町外れの教会の孤児院。」
バックが過ぎし日を思い浮かべながら言った。バックはテッドと同い年だったが、童顔で年齢よりも若く見える男だった。
「戻りたいとは思わねぇがな。」
教会の孤児院は劣悪な環境だった。体裁上は慈善事業だが、減税や公的給付金目当てで、子供達にはまともなサービスを施していない教会もあった。そういった荒んだ施設で育った子供達は、窃盗や暴力等を繰り返し大人になる頃には犯罪者に身をやつす者も少なくなかった。
そんな環境でもテッドとバックは助け合い希望を失わなかった。当時、二人は心を許せる唯一の友だった。
「お前、まだあのキャラバンで働いているのか。」
バックが聞いた。
テッドは孤児院にいた頃に、キャラバン『ハイウイングス』の倉庫から品物を盗もうとした所、ベーヴェンに捕まったのがきっかけで後にハイウイングスに入団した。
「まあな。お前の方は目指してた魔導士になれたみたいだな。」
テッドとバックは10歳の時に孤児院から脱走した。テッドはベーヴェンの元に転がり込み、バックは魔導士を目指して、魔導士の聖地ミーノへ旅立った。
それきり音信不通だった二人の10年振りの再会であった。
バックの後ろから一人の女性が近づいてきた。
「アリアだ。俺の嫁さんだよ。ミーノで知り合ったんだ。」
アリアは軽く会釈してテッドに笑いかけた。
「あなたがテッドさんですか。主人からいつも話は聞いてます・・・」
背が高く、凛とした女性だった。
「え!?お前結婚してんの!?」
予想だにしていない事実にテッドは思わずすっとんきょうな声を上げて驚いた。
「子供もいる。まだ3ヶ月だ。」
よく見るとアリアは男の子の赤ん坊を抱いていた。バックと同様、山吹色の髪をした赤ん坊だった。
「・・・な、名前は?」
衝撃的な事実判明の連続に、テッドはそれだけ聞くのが精一杯だった。
「ダンって名付けた。暁って意味だ。かっこいいだろ。」
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜。
THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−3
初めから読む場合はこちらから
http://goodpencil.hatenablog.com/entry/2017/11/04/200026
3
ハイウイングスの一行は平原を進んだ。太陽が真上に来る頃、岩場は少なくなり見渡しの良い景色が広がった。
行く先に集落がポツンと見える。オフナ村である。
オフナは牧場の村である。周囲の広い草原では、たくさんの牛や馬、羊が放牧されている。
ハイウイングスは、この村にもベイサイドタウンやカサキシティからの物資を卸している。また、ミルクや羊毛、牛や馬等、村から他の町への卸しも請負っている。
村に到着すると村長が迎えてくれた。杖をついた痩せているこの老人は、村一番の牧場主でもある。
村の中央広場に馬を停めた団員達は、物資の入出荷作業を行った後、昼の休憩をとった。
「こんにちは皆さん。いつもご苦労様。」
団員達が若い女性が声をかけてきた。彼女を見るや、ヘンデンが立ち上がって大きな声で答えた。
「こんにちは、エリーゼさん!」
エリーゼと呼ばれた女性は小さく手を振って広場を通り過ぎて行った。
「相変わらずエリーゼさんはかわいいな・・・。」
彼女の後ろ姿に見とれるヘンデンにシューマが言った。
「ヘンデンも相変わらずだな。そんなに好きならデートにでも誘ったらどうだ。」
「おいらなんかに彼女が振り向いてくれるはず無いでやす。見てるだけで幸せでやすから。」
「ふーん。そんなもんかよ。」
「守りに入ったら負けだぜ、ヘンデン。ガンガン攻めろよ。」
テッドがヘンデンに言った。
「お前は攻めすぎなんだよ。だから朝みたいな暴走するんじゃねぇか。」
「確かに朝はやらかしたが、何も被害は無かったし、俺のストレス解消にもなったから、あれはあれで良かったんだよ。次から気をつければいいだけの話だぜ。」
シューマが嫌味を言うも、テッドはケロッとして返した。テッドは良くも悪くも引きずらないタイプだった。
「テッドさんのその超ポジティブな性格、うらやましいでやす・・・。」
ヘンデンがテッドを見ながら言った。
「お前はどうなんだよ。クレアちゃんとよくデートしてるじゃねぇか。」
シューマがテッドに聞いた。
「デートじゃねぇよ。買い物に付き合わされてるだけだ。」
「クレアちゃん、テッドさんに気があるでやすよ。だから毎日弁当も作ってくれるでやす。」
「そりゃねぇだろ。いつも小言ばっか言われるんだぜ。弁当だって有料なんだぜ?ツケだけどな。」
「テッドお前、本当に女心わかってねぇな。」
「・・・テッドさんのその鈍さは見習いたく無いでやすね・・・。」
休憩の後、一行は再びカサキシティに向けて出発した。
キャラバンは平原を抜け、ハクネ山脈の山道へと入って行った。
東西に連なるこの山脈を越えればカサキシティだった。山には背の高い針葉樹が数多くそびえ、山道の旅人達を見下ろしていた。
標高はあまり高くないが山道は意外と細く険しい。道の片側が崖になっている所もある。一行は慎重に馬を進めた。
しばらく進むと、長い吊り橋が現れた。山間の深い谷を渡る橋だ。大きく頑丈な吊り橋だが、風でギシギシと音を立てて揺れている。馬車でギリギリ通れるくらいの幅しかない。はるか谷底には川が流れているが、落ちたらまず助からないだろう。
キャラバンは、一小隊ずつ吊り橋を渡った。
自分の前の小隊が吊り橋を渡り切ったのを確認したテッド小隊は、橋を渡り始めた。
「落ちたら一巻の終わりだよな。」
シューマが下を覗き込みながら言った。
その時、厚い雲が覆う空に黒い影が現れた。
「あれは・・・。ヤバイぞ!人喰い鷲だ!」
ハクネ山脈に巣食う、翼を広げた全長が5メートルはあろうかという巨大な漆黒の鷲である。燃えるように紅いルビー色の眼は吊り橋を渡るテッドの小隊を狙っていた。
「迎撃しろ!馬に近づけるなよ!」
小隊に近づけないためには射程距離の長い武器が必要である。
シューマはクロスボウガンを装備していた。攻撃力は低いが、飛距離が長く命中精度が高い自動弓矢である。
ヘンデンが持っているのはキャノンボウと呼ばれる武器である。矢の代わりに直径10センチ程の鉄球を撃ち出す大型のボウガンである。飛距離と命中精度はクロスボウガンよりも劣るが、高い破壊力を誇る。
人喰い鷲は右前方の上空から迫ってきた。距離は100メートル程か。テッドは団員に攻撃の命令を出した。
「シューマ、撃て!」
シューマのボウガンから矢が放たれた。矢は風を切り鷲の胴体に命中した。
鷲はかん高い鳴き声を上げて一瞬怯んだが、再び向かってきた。
距離は50メートル程に迫っている。
「ダメだテッド、仕留め切れねぇよ!」
「ヘンデン、撃て!」
ヘンデンのキャノンボウから鉄球が撃ち出される。
鉄球はグシャッという鈍い音と共に人喰い鷲の胸に命中した。鷲はうめくような鳴き声をあげ、よろめきながらもまだこちらに向かって来る。ダメージは大きいようだが、仕留め切れていない。
「ヘンデン、トドメを!」
「ちょっと待ってでやす!」
鉄球をキャノンボウに装填するためには固い弓を引く必要があり、時間がかかる。その間に大鷲は段々迫ってきた。
「ビーゼ、頼む!」
「いい判断だ。任せろ。」
吊り橋の目の前まで大鷲がゆっくりと近づいてきたその瞬間、ビーゼが馬上から跳躍した。
空中でビーゼは腰の剣の柄を握り、抜きざまに大鷲に斬りつけた。ビーゼの一撃必殺、居合斬りである。テッドにはあまりの速さに一筋の閃光にしか見えなかった。
一瞬の間の後、人喰い鷲の首が胴体から離れた。首を失った鷲の胴体は血を噴き出しながら谷底へと落下して行った。
「す・・・すげぇ・・・。」
「さすがでやす・・・。」
シューマとヘンデンはポカンとして呟いた。
ビーゼは刃の血を払い、剣を鞘に収めた。ビーゼの剣はオサフネと呼ばれる有名な業物であるとテッドは聞いた事があるが、実際にその威力を目の当たりにするのは初めてだった。ビーゼは二振りの剣を腰に下げており、普段はテッドと同じ護身刀を使用していたからだ。
テッドは改めてビーゼの強さを再確認した思いだった。
吊り橋の向こうで見守っていたベーヴェンは、小さく頷くと何事もなかったかのようにキャラバンを進めはじめた。
TO BE CONTINUED...
次回もお楽しみに〜。