T.ジョニーT.の雑記帳

きまぐれジョニーの思いつきノート

THE MAGIC CRAFT サブエピソード1−3

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3

ハイウイングスの一行は平原を進んだ。太陽が真上に来る頃、岩場は少なくなり見渡しの良い景色が広がった。
行く先に集落がポツンと見える。オフナ村である。
オフナは牧場の村である。周囲の広い草原では、たくさんの牛や馬、羊が放牧されている。
ハイウイングスは、この村にもベイサイドタウンやカサキシティからの物資を卸している。また、ミルクや羊毛、牛や馬等、村から他の町への卸しも請負っている。
村に到着すると村長が迎えてくれた。杖をついた痩せているこの老人は、村一番の牧場主でもある。
村の中央広場に馬を停めた団員達は、物資の入出荷作業を行った後、昼の休憩をとった。

 

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「こんにちは皆さん。いつもご苦労様。」
団員達が若い女性が声をかけてきた。彼女を見るや、ヘンデンが立ち上がって大きな声で答えた。
「こんにちは、エリーゼさん!」
エリーゼと呼ばれた女性は小さく手を振って広場を通り過ぎて行った。
「相変わらずエリーゼさんはかわいいな・・・。」
彼女の後ろ姿に見とれるヘンデンにシューマが言った。
「ヘンデンも相変わらずだな。そんなに好きならデートにでも誘ったらどうだ。」
「おいらなんかに彼女が振り向いてくれるはず無いでやす。見てるだけで幸せでやすから。」
「ふーん。そんなもんかよ。」
「守りに入ったら負けだぜ、ヘンデン。ガンガン攻めろよ。」
テッドがヘンデンに言った。
「お前は攻めすぎなんだよ。だから朝みたいな暴走するんじゃねぇか。」
「確かに朝はやらかしたが、何も被害は無かったし、俺のストレス解消にもなったから、あれはあれで良かったんだよ。次から気をつければいいだけの話だぜ。」
シューマが嫌味を言うも、テッドはケロッとして返した。テッドは良くも悪くも引きずらないタイプだった。
「テッドさんのその超ポジティブな性格、うらやましいでやす・・・。」
ヘンデンがテッドを見ながら言った。
「お前はどうなんだよ。クレアちゃんとよくデートしてるじゃねぇか。」
シューマがテッドに聞いた。
「デートじゃねぇよ。買い物に付き合わされてるだけだ。」
「クレアちゃん、テッドさんに気があるでやすよ。だから毎日弁当も作ってくれるでやす。」
「そりゃねぇだろ。いつも小言ばっか言われるんだぜ。弁当だって有料なんだぜ?ツケだけどな。」
「テッドお前、本当に女心わかってねぇな。」
「・・・テッドさんのその鈍さは見習いたく無いでやすね・・・。」
休憩の後、一行は再びカサキシティに向けて出発した。

 

キャラバンは平原を抜け、ハクネ山脈の山道へと入って行った。
東西に連なるこの山脈を越えればカサキシティだった。山には背の高い針葉樹が数多くそびえ、山道の旅人達を見下ろしていた。
標高はあまり高くないが山道は意外と細く険しい。道の片側が崖になっている所もある。一行は慎重に馬を進めた。
しばらく進むと、長い吊り橋が現れた。山間の深い谷を渡る橋だ。大きく頑丈な吊り橋だが、風でギシギシと音を立てて揺れている。馬車でギリギリ通れるくらいの幅しかない。はるか谷底には川が流れているが、落ちたらまず助からないだろう。
キャラバンは、一小隊ずつ吊り橋を渡った。
自分の前の小隊が吊り橋を渡り切ったのを確認したテッド小隊は、橋を渡り始めた。

 

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「落ちたら一巻の終わりだよな。」
シューマが下を覗き込みながら言った。
その時、厚い雲が覆う空に黒い影が現れた。
「あれは・・・。ヤバイぞ!人喰い鷲だ!」
ハクネ山脈に巣食う、翼を広げた全長が5メートルはあろうかという巨大な漆黒の鷲である。燃えるように紅いルビー色の眼は吊り橋を渡るテッドの小隊を狙っていた。
「迎撃しろ!馬に近づけるなよ!」
小隊に近づけないためには射程距離の長い武器が必要である。
シューマはクロスボウガンを装備していた。攻撃力は低いが、飛距離が長く命中精度が高い自動弓矢である。
ヘンデンが持っているのはキャノンボウと呼ばれる武器である。矢の代わりに直径10センチ程の鉄球を撃ち出す大型のボウガンである。飛距離と命中精度はクロスボウガンよりも劣るが、高い破壊力を誇る。
人喰い鷲は右前方の上空から迫ってきた。距離は100メートル程か。テッドは団員に攻撃の命令を出した。
「シューマ、撃て!」
シューマのボウガンから矢が放たれた。矢は風を切り鷲の胴体に命中した。
 鷲はかん高い鳴き声を上げて一瞬怯んだが、再び向かってきた。
距離は50メートル程に迫っている。
「ダメだテッド、仕留め切れねぇよ!」

 

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「ヘンデン、撃て!」
ヘンデンのキャノンボウから鉄球が撃ち出される。
鉄球はグシャッという鈍い音と共に人喰い鷲の胸に命中した。鷲はうめくような鳴き声をあげ、よろめきながらもまだこちらに向かって来る。ダメージは大きいようだが、仕留め切れていない。
「ヘンデン、トドメを!」
「ちょっと待ってでやす!」
鉄球をキャノンボウに装填するためには固い弓を引く必要があり、時間がかかる。その間に大鷲は段々迫ってきた。
「ビーゼ、頼む!」
「いい判断だ。任せろ。」
吊り橋の目の前まで大鷲がゆっくりと近づいてきたその瞬間、ビーゼが馬上から跳躍した。
空中でビーゼは腰の剣の柄を握り、抜きざまに大鷲に斬りつけた。ビーゼの一撃必殺、居合斬りである。テッドにはあまりの速さに一筋の閃光にしか見えなかった。
一瞬の間の後、人喰い鷲の首が胴体から離れた。首を失った鷲の胴体は血を噴き出しながら谷底へと落下して行った。

 

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「す・・・すげぇ・・・。」
「さすがでやす・・・。」
シューマとヘンデンはポカンとして呟いた。
ビーゼは刃の血を払い、剣を鞘に収めた。ビーゼの剣はオサフネと呼ばれる有名な業物であるとテッドは聞いた事があるが、実際にその威力を目の当たりにするのは初めてだった。ビーゼは二振りの剣を腰に下げており、普段はテッドと同じ護身刀を使用していたからだ。
テッドは改めてビーゼの強さを再確認した思いだった。
吊り橋の向こうで見守っていたベーヴェンは、小さく頷くと何事もなかったかのようにキャラバンを進めはじめた。

 

TO BE CONTINUED...

 

次回もお楽しみに〜。